ドラマ撮影中の事故で、左目を失明したフリーの男性スタントマン(40代)が労災請求したところ、
三田労働基準監督署が請求を却下していたことが分かった。男性は審査請求(不服申し立て)を行い、労災認定を目指している。
三田労基署が管轄する東京都港区には、NHKを除いた主要テレビ局(民放キー局)が集まっている。
テレビ局は、俳優など「実演家」の労災保険料を払っておらず、男性の労災が認められるかどうかは、
実演家の権利向上をめぐる分水嶺となりそうだ。
厚生労働省は近年、リーフレットなどを通し、個人事業主である実演家も「労働者性」があれば、労災は認められると発信している。
男性を支援している映画監督で、日本俳優連合(日俳連)理事でもある高瀬将嗣氏は、
「労基署の判断は、厚労省の方針と真っ向から対立するものだ」と憤っている。
●テレビ局は労災保険だけでなく、傷害保険にも未加入
高瀬氏によると、男性は2014年11月、民放キー局が自社制作した連続ドラマの撮影に参加。
アクションシーンのリハーサル中、「もらい事故」で左目を強打し、失明した。
こうした事故に備え、映画会社では傷害保険に入っているところもあるそうだが、放送局は未加入。
事故の都度、治療費や見舞金などを払うことが通例だという。この局も男性の治療費を一部立て替えていたが、
連ドラの放送が終わると、「後遺症は自己責任」として、支払いを打ち切ったという。
男性は労災請求のため労災証明も求めたが、局は「労働者ではない」と拒否した。
局側の主張は、キャスティングや演出などは、「口頭」で請負契約を結んだアクション監督に一任しており、
スタントマン個人とは契約をしていないなどというもの。労基署の判断も局の主張をなぞったものだった。
●年収300万以下が半数の実演家…労災の個人加入は不可、民間保険は負担デカすぎ
一般に労働者性の判断は、(1)指揮監督下の労働であるか、(2)報酬が労務の対償であるかによる。
高瀬氏は、スタントマンは指定された場所で、指定されたパフォーマンスが求められており、労働者だと主張している。
現場で難度の高いアクションを要求されても、断るのは容易ではないという。
「自主的なトレーニング中の事故について、面倒を見てくれとは言っていない。
しかし、撮影のような仕事中のケガについては、制作サイドが労災や包括保険で対応すべきだ。
たとえば、建設現場では、元請けが下請けの分も労災保険料を払っている。
実演家の場合、労災保険料は賃金の0.3%。テレビ局が払えない額だとは思えない」(高瀬氏)
「体が資本」の実演家たちにとって、ケガは収入が途絶えることと同義だ。
そこに労災保険があれば、休業補償が受けられるし、万一のときは障害補償や遺族への補償もある。
しかし、実演家は原則として個人では労災保険に加入できない。「一人親方」などに認められている「特別加入」も対象外だ。
一方、民間の保険は通常、補償の幅が狭く、手厚い補償を望めば、保険料は高額化する。
年収が何千万円もあるのなら、それでも良いのかもしれない。
しかし、日本芸能実演家協議会(芸団協)の2014年の調査によると、実演家のおよそ半数は年収300万円未満。
華やかなイメージと異なり、年収1000万円以上は約8%しかいない。
今回のスタントマンの男性も、日当は2万円だったという。その彼に対し、このテレビ局がかけた言葉は、
「ケガをしないのがスタントマンだろう」という心無いものだったという。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170807-00006473-bengocom-soci